エレクトリック・ピアノ — Rhodes・Wurlitzer・Clavinet

電子鍵盤楽器の系譜、第 2 話。完全な電子音が実用化される前、大衆音楽の音を決定づけたのは「電気機械式」の鍵盤だった。金属のタインを叩く Fender Rhodes の甘い音、リードを叩く Wurlitzer の荒い音、弦を叩く Hohner Clavinet のファンキーな音。ソウル・ファンク・フュージョン・シティポップの音色を作った、アコピと電子音の中間の楽器たちを辿る。

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アコピと電子音の中間

シンセサイザーが電子的に音を 合成する より前、 1950-70 年代の大衆音楽の鍵盤の音を決定づけたのは、 電気機械式 (electro-mechanical) の楽器だった。 これが エレクトリック・ピアノ (エレピ) である。

エレピの原理はシンプル: 機械的な振動体 (金属の棒・リード・弦) をハンマーで叩き、 その微小な振動を電磁 / 静電ピックアップで拾って増幅する。 アコースティックピアノ (弦の共鳴) と、 シンセ (完全な電子発振) の、 ちょうど中間に位置する。 「振動体を叩く」 点でピアノ的、 「電気で増幅する」 点で電子的。

発音方式の 3 系統

エレピは 「何を叩いて、 どう電気に変えるか」 で 3 つに分かれる:

方式 振動体 ピックアップ 代表機種 音の性格
タイン式 金属の棒 + トーンバー 電磁 Fender Rhodes 甘く鐘のよう
リード式 金属のリード 静電 Wurlitzer ざらつき・歪ませやすい
打弦式 実際の弦 電磁 Hohner Clavinet 打楽器的・ファンキー

いずれも、 生の振動体はほとんど音がしない。 アンプとスピーカーで増幅して初めて音になる — この 「機械振動 + 電気増幅」 が、 アコピともシンセとも違う独特の質感を生む。

Fender Rhodes — タイン式の王

ハロルド・ローズ が発明。 起点は軍病院での療養用ミニピアノだった。

  • Piano Bass (1959)Suitcase (1965、 アンプ内蔵)Stage 73/88Mark I / II
  • ハンマーが タイン (非対称の音叉 — 細い金属棒 + トーンバー) を叩き、 電磁ピックアップで拾う
  • 音は 甘く、 鐘のように、 まろやか。 ジャズ・ソウル・フュージョンの象徴

ハービー・ハンコックチック・コリアスティーヴィー・ワンダー、 そして シティポップ全般 が Rhodes の音を使った。 「夜」 「都会」 「アンニュイ」 の記号として、 今も最も愛されるエレピである。

Wurlitzer — リード式の荒さ

Wurlitzer 200 / 200A が代表。 ハンマーが 金属リード を叩き、 静電ピックアップで拾う。 Rhodes よりざらついて、 歪ませやすい ため、 ロックやブルースに似合う。 レイ・チャールズ「What’d I Say」、 スーパートランプ、 ビートルズなどが使った。

Hohner Clavinet — ファンクの象徴

Clavinet D6 / E7。 鍵を押すとゴム先のハンマーが 弦を押さえつけて鳴らす (増幅されたクラヴィコードに近い)。 音は 打楽器的で歯切れよく、 ファンキー。 ワウペダルとの相性が抜群で、 スティーヴィー・ワンダー「Superstition」 がクラビの代名詞となった。

そのほか、 リードを粘着パッドで弾く Hohner Pianet (ビートルズ、 ゾンビーズ)、 実弦を使った小型グランド Yamaha CP-70/80 (ジェネシス、 ピーター・ガブリエル) も、 この時代の重要な電気鍵盤である。

衰退と復権 — 偽物が本物を駆逐する

1980 年代、 エレピはデジタル化で急速に衰退した。 皮肉なことに、 その引き金は Yamaha DX7 の FM プリセット「E.PIANO 1」 — 本物の Rhodes を模した音が、 実機より軽く安価だったため、 80 年代ポップスを席巻した。 偽エレピが本物のエレピを駆逐した のである (この逆説は第 6 話で詳しく扱う)。

その後:

  • 1990s-2000s — サンプリング音源のデジタルピアノ / ワークステーションが Rhodes・Wurli 音色を内蔵
  • 現代 — 実機を精密モデリングした ソフトウェア音源 が定番に。 実機の再発行 (Rhodes Mark 8、 2021 年に新生 Rhodes 社が復活) も進み、 ヴィンテージ実機の中古価格は高騰

電子鍵盤の系譜における位置

エレピは、 電子鍵盤の系譜における 最初の実用的な電気鍵盤世代 にあたる。 テルミン (第 1 話) が実験的先駆なら、 Rhodes・Wurli・Clavinet は 大衆音楽で電気鍵盤を定着させた最初の成功例 だった。

アコピ (弦の共鳴)
  → エレクトリック・ピアノ (電気機械式) ★本話
  → シンセサイザー (電子的合成)
  → デジタルピアノ (サンプリング)
  → ソフトシンセ (モデリング)

「機械の振動を電気で増幅する」 という発想は、 完全な電子音への過渡期を担った。 次記事では、 その次の飛躍 — モーグ が電圧制御で音を 「合成」 し、 アナログシンセサイザーが誕生する瞬間を辿る。

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