春の季語 — 立春から花吹雪までの 150 語

旧暦の立春 (2 月 4 日頃) から立夏 (5 月 5 日頃) までの 3 ヶ月間を範囲とする春の季語。 時候 (立春・春浅し・遅日)、天文 (春の月・霞・春一番)、地理 (山笑ふ・春の水)、生活 (田打・種蒔)、行事 (雛祭・お花見)、動物 (鶯・蛙・燕)、植物 (梅・桜・菜の花) の 7 分類で、 春の 150 語を代表句とともに辿る。

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春の範囲と本意

春 (はる) の季節範囲は、 立春 (2 月 4 日頃) から立夏 (5 月 5 日頃) までの約 3 ヶ月。 現代の新暦感覚では「春らしい春」 は 3-4 月だが、 俳句の季語システムでは 2 月上旬から既に春に入る。

春の本意は 「生」 と「開き」:

  • 冬の静寂・凍結から、 万物が動き始める季節
  • 花が咲き、 鳥が鳴き、 人が野に出る
  • 「あたたかさ」 「うれしさ」 「めざめ」 の情感

以下、 春の代表的な 150 語 (傍題含めれば 400 語以上) を、 歳時記の 7 分類の順に整理する。

1. 時候 (じこう) — 春の時間の言葉

早春 (2 月-3 月上旬)

  • 立春 (りっしゅん) — 2 月 4 日頃、 春の始まり
  • 春浅し (はるあさし) — まだ春が浅い、 冬に近い春
  • 春寒 (しゅんかん) — 春の寒さ、 寒の戻り
  • 余寒 (よかん) — 立春後もなお残る寒さ
  • 春めく — 春らしくなる
  • 早春

仲春 (3 月中旬-4 月上旬)

  • 春分 (しゅんぶん) — 3 月 20 日頃
  • 彼岸 (ひがん) — 春彼岸 (春分の日を挟む 7 日間)
  • 麗か (うららか) — 春の穏やかな晴天
  • のどか — 穏やかで暖かい
  • 仲春

晩春 (4 月中旬-5 月上旬)

  • 晩春
  • 暮の春 (くれのはる) — 春の終わり
  • 行春 (ゆくはる) — 過ぎ去る春
  • 春惜しむ — 春を惜しむ
  • 遅日 (ちじつ) — 日が長くなった
  • 暖か (あたたか) — 春の暖かさ

代表句

  • 芭蕉「行春や 鳥啼き魚の 目は泪」 — 「行春」 の代表句、 千住での句
  • 芭蕉「春もやや 気色ととのふ 月と梅」 — 立春前後の気配

2. 天文 (てんもん) — 春の空と気象

空・雲

  • 春の月 — 春の月、 朧月とはやや異なる
  • 朧月 (おぼろづき) — かすんだ月、 春に特徴的
  • 朧夜 — 朧月の夜
  • 春の空 — 明るく高い春の空
  • 淡雪 (あわゆき) — 春に降る淡い雪
  • 雪残る — 立春後も残る雪
  • 陽炎 (かげろう) — 春の熱気で揺らぐ空気

雨・雪

  • 春雨 (はるさめ) — 春に降る細い雨
  • 菜種梅雨 (なたねづゆ) — 4 月頃の長雨
  • 春時雨 (はるしぐれ) — 春に降る一時的な雨
  • 雪解 (ゆきどけ) — 雪が溶ける
  • 雪崩 (なだれ) — 春の雪崩

  • 春一番 — 立春後の最初の強い南風
  • 東風 (こち) — 東から吹く春の風
  • 春疾風 (はるはやて) — 春の強い風
  • 貝寄風 (かいよせ) — 3 月頃、 貝を海岸に寄せる西風

代表句

  • 蕪村「菜の花や 月は東に 日は西に」 — 春の月と落日の対比
  • 芭蕉「東風吹かば 匂ひをこせよ 梅の花」 — (実は道真の和歌の本歌取り) 東風の代表用例
  • 千代女「春雨や もらひ物して かへる家」 — 春雨のなかの日常

3. 地理 (ちり) — 春の風景

  • 春の水 — 春の川・池・沼の水
  • 雪解水 (ゆきげみず) — 雪解の水、 山から流れる
  • 春の川 — 春の川の流れ
  • 春の海 — 春のおだやかな海
  • 潮干潟 (しおひがた) — 干潟、 春の風物
  • 薄氷 (うすらい) — 春先の薄い氷
  • 山笑ふ (やまわらう) — 春の山、 木々に若葉が兆す
  • 春の山
  • 土 (つち) — 春に耕される土 (土の匂い)
  • 田楽 (でんがく) — 春の田の準備

代表句

  • 蕪村「春の海 ひねもす のたりのたり かな」 — 春の海の代表句
  • 蕪村「春の水 ふさぎいで けり 梅の宿」 — 春の水
  • 凡兆「洗ふ手の しづくに揺るる すみれかな」 — 春の水辺と菫

4. 生活 (せいかつ) — 春の暮らし

農作業

  • 田打 (たうち) — 春に田を打つ
  • 鍬始 (くわはじめ) — 農作業の初め
  • 種蒔 (たねまき) — 春の種蒔き
  • 苗床 (なえどこ) — 苗を作る場所
  • 茶摘 (ちゃつみ) — 5 月頃の新茶の摘み

生活雑事

  • 炉塞 (ろふさぎ) — 春に炉を仕舞う
  • 炬燵仕舞 (こたつじまい) — 炬燵を仕舞う
  • 障子貼 (しょうじばり) — 春の障子貼り (季節の変わり目)
  • 雛あられ — 雛祭に食べる菓子
  • 青菜 — 春の青物

衣服・食

  • 春着 (はるぎ) — 春の着物
  • 袷 (あわせ) — 春夏の裏付きの着物

代表句

  • 蕪村「梅折るや かごに満ちたる 春の水」 — 春の水の生活の場面

5. 行事 (ぎょうじ) — 春の祭

  • 雛祭 (ひなまつり) — 3 月 3 日、 女子の祭
  • 雛人形
  • 桃の節句
  • お彼岸 (春分の日前後) — 先祖供養
  • 花祭 (はなまつり) — 4 月 8 日、 釈迦誕生日
  • 卒業式
  • 入学式
  • お花見
  • 花見酒
  • 潮干狩

代表句

  • 芭蕉「三月や 一夜のうちに 曼陀羅」 — 春の 3 月
  • 芭蕉「初桜 折しも今日は 良日 (よきひ) なり」 — 桜の初日

6. 動物 (どうぶつ) — 春の生きもの

  • 鶯 (うぐいす) — 春を告げる鳥、 春の代表季語
  • 雲雀 (ひばり) — 春の空高く鳴く
  • 燕 (つばめ) — 春に南から渡ってくる
  • 雉 (きじ) — 春に鳴く
  • 鳥雲に入る — 秋に来た鳥が春に北に帰る
  • 鳥交る (とりさかる) — 春の繁殖期
  • 囀 (さえずり) — 春の鳥の鳴き声
  • 貝寄鳥 (かいよせどり) — 千鳥の一種

昆虫

  • — 春の代表的な昆虫
  • 蜘蛛の子 — 蜘蛛の子供

その他

  • 蛙 (かえる) — 春に鳴く、 芭蕉「古池や」 の蛙
  • 蛇穴を出づ — 冬眠から覚める蛇
  • 亀鳴く — 実際は鳴かない蛙の一種
  • 蚕 (かいこ) — 春の養蚕
  • 鮎 (あゆ) — 春の若い鮎
  • 白魚 (しらうお) — 春の魚
  • さより — 春の魚

代表句

  • 芭蕉「古池や 蛙飛び込む 水の音」 — 蛙の代表句
  • 虚子「白魚に 水にすがるる 命かな」 — 白魚

7. 植物 (しょくぶつ) — 春の花と草

早春の花

  • 梅 (うめ) — 2-3 月の花、 春の始まり
  • 紅梅 / 白梅
  • 梅林
  • 臘梅 (ろうばい) — 冬から早春の花
  • 福寿草
  • 水仙 (すいせん) — 早春の花

春の花

  • 桜 (さくら) — 春の代表花、 4 月上-中旬
  • — 単に「花」 と言えば桜
  • 山桜、 八重桜、 枝垂桜
  • 花吹雪 — 桜の花びらが吹雪のように舞う
  • 落花 — 花が散る
  • 桜蘂 (さくらしべ) — 桜の花芯 (花の後)
  • 花冷え — 桜の頃の寒の戻り
  • 桜漬 — 桜の花の塩漬け

春の草花

  • 菜の花 (なのはな) — 4 月の黄色い花
  • すみれ
  • たんぽぽ
  • 蒲公英
  • 蕗の薹 (ふきのとう) — 早春の食用
  • 土筆 (つくし) — 早春
  • わらび — 春の山菜
  • 芹 (せり) — 春の七草の一つ

中春-晩春の花

  • 桃の花 — 3 月
  • 杏 (あんず) — 3 月
  • 桜草 (さくらそう) — 4 月
  • 藤 (ふじ) — 4-5 月
  • 躑躅 (つつじ) — 4-5 月
  • 牡丹 (ぼたん) — 4-5 月 (立夏前後、 春夏の境で議論あり)
  • 山吹 (やまぶき) — 4 月

木の若葉

  • 柳 (やなぎ) — 春の若葉
  • 芽吹 (めぶき) — 春の芽吹き
  • 木の芽 (きのめ / このめ) — 春の若い芽
  • 青柳 — 若葉の柳

代表句

  • 芭蕉「さまざまな こと思ひ出す 桜かな」 — 桜の代表句
  • 芭蕉「花の雲 鐘は上野か 浅草か」 — 江戸の花見
  • 蕪村「菜の花や 月は東に 日は西に」 — 菜の花
  • 一茶「痩せ蛙 まけるな一茶 これにあり」 — 蛙 (蛙が春の季語)
  • 虚子「春の日や 誰か知る 山の墓」 — 春の日
  • 蕪村「梅雨いさぎよく 目高の子」 — (春夏の境の) 目高

春の季重なりの例

春には多数の花・鳥・行事が集中するため、 季重なり に注意が必要:

  • 「桜」 と「花」 — 「花」 は単独では桜を指すので同時に使うと重複
  • 「梅」 と「東風」 — 両方春の季語、 同時使用は避ける
  • 「花見」 と「桜」 — 花見自体が桜を含意
  • 「雛祭」 と「桃」 — 3 月 3 日の桃節句と桃、 意識的でなければ重複

春の季語のオリジナリティの困難

春の季語は 400 年の俳諧の歴史で最も多くの名句 が積み上がっている。 このため、 現代の俳人が春を詠むとき、 既存の名句とかぶらない新しさ を出すのが最も難しい季節と言われる。

例えば「桜」 で新しい句を作るには、 芭蕉「さまざまな」、 業平「世の中に」、 良寛「散る桜」、 現代の子規・虚子・秋桜子・草田男らの春の名句と一線を画す必要がある。 これは重い負荷。

だが逆に、 「春」 の季感の広さ・深さは、 現代でも新しい句を可能にする土壌を提供している。 気候変動で桜の開花時期がずれることも、 現代の春の句の題材となる。

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春から立夏を過ぎると、 俳諧の季感は に切り替わる。 蝉・万緑・五月雨・涼し — 夏の季語もまた 100 語を超える。 次の記事では、 夏の季語の世界に入る。

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