ヴィオッティと古典派 — 近代奏法の父とトルテの弓
バロックと ロマン派のあいだ、 古典派のヴァイオリン。 ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティが「近代ヴァイオリン奏法の父」として演奏技法を体系化し、 フランソワ・トルテが現代型の凹型の弓を完成させて奏法を一変させた。 モーツァルトの 5 つの協奏曲、 ベートーヴェンの協奏曲とソナタ。 楽器は不変でも、 弓と奏法が音楽を変えた時代を辿る。
バロックと ロマン派の あいだ
バッハの死 (1750) で バロックが終わり、 古典派 (1750-1820 頃) が始まる。 この時代、 ヴァイオリンには 2 つの 大きな変化が起きた:
- 奏法の体系化 — ヴィオッティによる 近代奏法の確立
- 弓の革命 — トルテによる 現代型の弓の完成
楽器本体 (クレモナの銘器) は 不変でも、 弓と奏法が変わることで、 ヴァイオリンの表現は 大きく前進した。
ヴィオッティ — 「近代ヴァイオリン奏法の父」
ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティ (Giovanni Battista Viotti、 1755-1824) は イタリア生まれ、 パリとロンドンで活躍した ヴァイオリニスト兼作曲家。 近代ヴァイオリン奏法の父と呼ばれる。
業績
- 29 のヴァイオリン協奏曲 — 特に 第 22 番 イ短調が名高い
- 朗々と歌う レガート奏法 を確立 — バロックの 短い区切りから、 長く伸びる 旋律線へ
- パリ音楽院の フランス・ヴァイオリン楽派 (ロード、 クロイツェル、 バイヨ) の源流に
- クロイツェル は ベートーヴェンの [クロイツェル・ソナタ] の献呈相手、 かつ 今も使われる 教則本 [42 の練習曲] の著者
ヴィオッティの 「歌う」 奏法は、 次のトルテの弓と 結びついて、 ロマン派の 表現主義を 準備した。
トルテの弓 — 「弓のストラディヴァリ」
フランソワ・トルテ (François Tourte、 1747-1835) は パリの弓製作者。 現代型の弓を完成させ、 「弓のストラディヴァリ」 と呼ばれる。
バロック弓 vs トルテの弓
| バロック弓 | トルテの弓 (現代型) | |
|---|---|---|
| 形 | 外側に反る (凸) | 内側に反る (凹) |
| 材 | 各種 | フェルナンブコ材 |
| 重心 | 手元寄り | 均衡が良い |
| 音 | 短い・軽い発音 | 長く 均一な レガート、 強い音 |
トルテの弓は 重量配分・反り・毛の張り を科学的に最適化。 これにより:
- 長く 均一な レガート (持続する歌)
- 強く 太い音 (大ホールに対応)
- スピッカート・マルテレ など 多彩な弓の技法
「トルテの弓なくして ロマン派のヴァイオリンは 成立しなかった」。 楽器は 300 年前のクレモナ、 弓は 18 世紀末のトルテ — この組み合わせが 現代演奏の 標準となる。
モーツァルトの 5 つの協奏曲
モーツァルト (1756-1791) は 19 歳の 1775 年に 5 つのヴァイオリン協奏曲 を集中的に作曲 (第 1〜5 番)。
- 第 3 番 ト長調、 第 4 番 ニ長調、 第 5 番 イ長調 「トルコ風」 が特に有名
- モーツァルト自身が 名ヴァイオリニストで、 父レオポルトは 有名な ヴァイオリン教則本の著者
- 優美で 均整のとれた 古典派協奏曲の 規範
- 第 5 番の 終楽章に 「トルコ風」 の 荒々しい部分が挿入され (当時の トルコ趣味)、 名の由来に
モーツァルトの協奏曲は 技巧より 気品と歌。 現代でも コンクール・入門の 定番リパートリー。
ベートーヴェン — 協奏曲とソナタ
ベートーヴェン (1770-1827) は ヴァイオリン協奏曲を 1 曲だけ 残したが、 それが 別格の名作:
ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品 61 (1806)
- ヴァイオリン協奏曲の 「王」 と称される
- 初演は 失敗 (奏者が 練習不足だったという逸話) だが、 後に 最高峰の評価
- ティンパニの 4 連打で 始まる 象徴的な冒頭
- 交響的な スケールと 深い抒情
10 のヴァイオリン・ソナタ
- 第 5 番 「春」、 第 9 番 「クロイツェル」 が双璧
- 「クロイツェル・ソナタ」 は ヴァイオリンとピアノの 対等な 激しい対話、 トルストイの同名小説の 題材にも
- ヴァイオリンとピアノの デュオ (二重奏) という ジャンルの 頂点
ベートーヴェンで、 ヴァイオリン音楽は 古典派の均整 から ロマン派の情熱 へ 橋を架けた。
弦と調弦の変化
この時代、 ヴァイオリンの 周辺も 変化:
- 弦 — まだ ガット (羊腸) 弦が主流。 E 線のみ 後に スチール化
- 顎当て (chin rest) — 19 世紀初頭、 シュポア が発明。 楽器を 顎で固定でき、 左手が自由に
- 調弦音高 — 徐々に上昇 (ピッチ・インフレーション)
顎当ての発明は 地味だが 重要 — 左手が 楽器を支える負担から解放され、 高速なポジション移動 (パガニーニ的技巧) が可能になった。
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古典派の ヴァイオリン — ヴィオッティの奏法、 トルテの弓、 モーツァルト・ベートーヴェンの 名作を辿った。 これで 楽器・弓・奏法・作品 の 土台が 完全に揃った。 次記事は、 その土台の上に立つ 超絶技巧の 化身 — ニコロ・パガニーニ。 「悪魔に魂を売った」 と噂された 男が、 ヴァイオリンの 可能性を どこまで押し広げたかに迫る。